明日24(土)は鎌倉Bar RAMで生音ソロライヴです♪
19:30スタート。
https://keachkato.com/live.html
さて、38年ぶりに入ったNHKの食堂。社食、学食を思わせる広い食堂はその頃と変わっていなかった。食券を買って、メニュー別に異なる受付に並んで供されるのを待つ。オレと洋介は寿司の受付に、ハコは定食に、尚とマコトと娘さんは麺類に並んだ。寿司の受付はなぜか人気がなく、オレたち2人だけだった。洋介が注文した握りは注文を受けてから握るというちゃんとしたものだった。オレは焼き鯖ちらし。本番前なのでガッツリしたものは食べない。量的にもちょうど良かった。テーブルへ移動し、さっそく食べ始める。やがてハコが豚しゃぶ定食のトレイを持って隣に座った。ふと麺類の受付を見ると、そこだけ長蛇の列。やはり麺類は人気があるようだ。列の前の方に尚たちの姿は見えなかった。
寿司組が食べ終わった頃、ようやく彼ら3人がラーメンのどんぶりが乗ったトレイを持って着席。やがてハコの食事も終了し、彼ら3人が食べ終わるのを待ちながら雑談。paris matchが来月中国ツアーを行なうのだが、そのビジネスビザの取得に苦労しているという話を聞く。文化も常識も異なる国なので、行ったら行ったでまた何かありそうだと苦笑混じりで心配していた。
全員の食事が終わったところで楽屋に戻る。戻る途中、目の前の廊下を大勢の人が向こうに歩いて行くのが見えた。オレたちから見て、右から出て来たその列は右に曲がってオレたちが向かう方向へと歩いていた。
「あ、客入れ始まったんだな」
ちょうど19:00前だった。一緒になると気づかれるかもしれないので、入場の列が終わるのをやり過ごすことにした。右から出て来て右へ曲がって行くその列の一人として左を振り向く人がいなかったのが不思議でちょっと面白かった。5mも離れていないところにオレたちは隠れもせず佇んでいたのだが。
楽屋に戻り、また休憩。オレは鼻うがいと歯磨きをし、喉の調子を確認するために、ムスタングを抱えてスタジオの隅に行き、少し歌う。鼻の通りは良くなって鼻声は気にならなくなっていた。午前はダメでも夜にはたいてい復活するものだ。
それぞれ衣装に着替え始める。OA前ということもあり、それぞれの衣装についての詳細は差し控えたい。3/16のOAをお楽しみに。
とりとめのない雑談にも飽き始め、ただ出番が来るのを待つだけの、食後の少しけだるい時間がゆっくりと過ぎていく。
「酒飲んでるときの3時間4時間なんてあっという間なのにな」
ハコがそう云うと、その通りだと誰もが頷いた。みな口数が少なくなり始めたが、それでもマコトがいろいろとみんなに話しかけていたので、沈黙が続くということはなかった。
時間的に収録本番は始まっていたが、スタジオにはそのときの出演者以外入れないので様子を窺い知ることはできなかった。モニターはスタジオ外のスタッフが集まっているところにしかない。ひたすら出番を待つ。
歌の前にMC収録があり、それはヴォーカルとしてオレ一人が呼ばれていた。やがてADがオレを呼びやって来た。残っていたメンバーに「行ってきます」と云い置いて、ADとともにスタジオへ。隣にある控室で待機する。ここはスタッフたちがいるモニターの音が聞こえて来る。常に周囲がざわついていて、オレは一気に本番のテンションにスイッチが入っていくのを感じながら、スタッフが観ているモニターに近づいて行った。長尾Pが厳しい表情でモニターを見つめていた。
別のADに案内され、いよいよスタジオへ。MC席の裏手で待機。用意されていたペットボトルの水を口に含む。MCマイクを持ってMC席へADに誘(いざわな)われ、フロアディレクターと簡単な打ち合わせ。目の前には満席のお客さん。だが、まだここが暗いためか、お客さんが気付いた様子はなかった。
本番のMC収録が始まった。
これまたOA前なので、詳細を記すことはできない。3/16のOAの後、そのとき思ったことなど書きたいと思います。
撮り直しもなく無事終了。ADとともに再び楽屋へ戻る。戻る途中でADにどれくらい押しているのか訊ねる。
「えーと、5分押しですね」
ということは歌まで10分はある。一服して一息入れられそうだ。楽屋に戻り、みんなにその旨を伝えると、
「喜一、スタジオ行く途中の喫煙ルームで吸えよ。もし早く呼ばれても途中で会えるはずだから」
マコトの指示に従ってそうすることにした。キセルなのでほんの1分あれば済む。吸い終わって一息入れられたところで楽屋に戻る途中、向こうからADに先導されたメンバーが楽器持って101スタジオに行くところに出くわした。
「喜一、云った通りだろ」
オレは小走りで楽屋に戻り、ムスタングを手にして後を追いかける。しかし、急ぎ過ぎて息が上がってしまったら歌に差し仕えると思い、途中からゆっくり歩いて息を整えながら向かった。
メンバーはスタジオ脇の控室にいた。マコトの娘さんの隣の席が空いていたので座る。目の前の廊下を鈴木トオルさんが通りかかり、オレたちに気づいた。挨拶を交わし終え、また着席したそのとき、マコトが、
「あれ?喜一、シールド(ギターケーブル)とエフェクター(Phase 90)は?」
「あ!」
「やっぱりな。やるんじゃないかと思った」
洋介がニヤリとしながら云う。
「楽屋に忘れたか…。あ、待てよ。1本は局のシールド借りたんだ。自分のもう1本はスタッフに預けたんだ」
オレはケーブルを2本使っていて、間にエフェクターをかませていた。思い出そうとしたが、本番が迫っていることもあって混乱して来た。とにかくケーブルさえあればなんとかなる。
「エフェクターは?」
「楽屋に置いて来たか。テーブルの上だったっけ…。んーと、ま、いっか。なくても。ケーブルをアンプに直に差せば。ん?でも5mのケーブルでアンプまで長さ大丈夫かな」
「俺がギリ5m」
マコトが云った。自分のアンプの位置からマイク前までの距離を思い出そうとしたが、思い出せない。
洋介が、
「大丈夫じゃない?なんとかごまかせるよ」
それでオレもこの件は落着したつもりだった。しかし、リハと違うことになると本番でのテンションに影響してしまうかもしれない。たとえ使わないとはいえ、エフェクターがあるなしで、ケーブルの長さが変わるため、歌や動きや支障が出たらと不安になって来た。
「あのさ。悪いんだけどさあ、楽屋行って、オレンジの四角い箱みたいのがエフェクターだから持って来てもらえる?」
と、隣にいるマコトの娘さんに頼んだ。
「マジか!」
尚が驚き、苦笑している。SALLYのスタンバイはもうすぐだが、走れば往復2分で取って来れるだろう。娘さんが了解し、控室を飛び出して行った。その後、程なくなしてADから声がかかった。
「SALLYさんスタンバイお願いします」
フロア脇にいた長尾Pにまた挨拶し、ADに促されてステージに上がると客席が一瞬どよめいた。その時だった。オレの立ち位置には、ちゃんとエフェクターもケーブルもセットされているではないか。もしかしてスタッフが取りに行き、早くもセットまでしてくれたのか。いや、こんなに早いわけがない。思い出した。
「あ、そうか。リハ終わりで、機材スタッフにギター以外、ケーブルもエフェクターも全部預けたんだ」
ホッとすると同時に、メンバーもそのことに気づき大笑いとなった。が…、ってことは今頃娘さんは血眼になって探しているに違いない。ヤバイ…。あきらめてすぐに戻って来てくれれば良いんだけど。
ステージ上は、それぞれのセッティングが終わり、あとはキューを待つだけとなった。スタジオの入口に目をやったが、娘さんの姿はなかった。ディレクターのキューが出た。「バージンブルー」のイントロが始まった。そのとたん、それら一切のことはオレの脳裏からスーッとかき消された。
以降、本番の様子は3/16のOAでご視聴いただきたい。
SALLYの出番が終わり、スタジオを出る。長尾Pが、
「おー!お疲れさん」
少し柔和な表情に見えた。ホッとした。ハコと尚には、リハよりも本番の方が歌良かったと云われた。メンバーにそう云われたのならさらに安心だ。メイクさんが「すぐにメイク落としますか」と訊ねて来たので、何度も楽屋を往復するのも大変なので、すぐに落としてもらうことにした。ほかのメンバーは楽器を置きに一旦楽屋へ戻ったようだ。
メイクを落としてもらっている間、楽屋に戻ってもないはずのエフェクターを取りに行かせたことをようやく思い出す。ああ、悪い事したな。スタジオに戻って来れたのかな。
メイク落としが終わり、ムスタングを肩にかけて楽屋へ戻る。その途中でマコトとハコに出くわした。
「喜一、娘、怒ってるよー」
「喜一、娘さん泣いてるよ。これcolumnに書かなきゃな」
あちゃ〜。歌う前の緊張感とは別の緊張感が込み上げて来た。楽屋に戻るなり、娘さんにひたすら謝る。
「やっぱりな。喜一、なんかやるんじゃないかと思ってたよ」
洋介が昔の口調に戻って、責め立てるように云った。
「喜一に打ち上げでおごってもらいな。好きなものなんでも頼んで」
当然そのつもりだった。しかし、彼女は怒っても泣いてもいず、終始笑顔だった。無理していたのかもしれないが、それでもその笑顔にオレは救われた思いになったのは確かである。あとから聞いたが、結局戻って来たものの本番中はスタジオには入れず、スタジオ脇のモニターでオレたちの演奏を観ていたとのこと。悪いことをしてしまった。
打ち上げはいくつかの店を物色したが、どこも満席で、道玄坂まで歩き、ようやくミライザカ道玄坂店に入ることができた。尚はこのまま車で大阪に帰ると云い残し、NHKを出たところでオレたちと別れた。本番では尚らしいパフォーマンスをしていたはずだ。その画がカメラに抜かれていれば良いのだが。
「喜一のおごりだからなんでも頼みなよ」
洋介がマコトの娘さんにくどいくらいそう云う。
「昔っから、大事なところで何かやるんだよ。コイツは。忘れ物もそうだけど。このボケ老人って呼んでたからな」
酒が入って、洋介の口調は完全に昔の、SALLY時代のオレに対するそれになっていた。ほかのメンバーもまたオレが過去にやらかした話は知っている。しかし、それはそれとして、弁解がましいのは承知の上で云わせてもらえば、今回のことで本番直前の緊張が和らぎ、ステージはリラックスした良いムードになったのではないかと、そんな風にも思えないこともなかった。また、洋介とオレの心理的距離がおかげで少し縮まり、昔のような口調に戻れたことはむしろ僥倖だったとすら思うのだが、これは勝手な言い分であり見解であるかもしれない。
今回オレのやらかした事でのハナシも一段落し、昔話に花が咲いたところで、またしてもオレはやらかしてしまった。マコトの隣でおとなしくコーラを飲んでいた彼女を、
「ところで、あれだよね。マコトの姪だよね。マコトの兄貴の娘さん?」
座が一瞬、シンとした。
「おまえ、マジで何云ってんだよ!一日中、娘って云ってただろうが」
洋介が吼えるように云った。オレは何を聞き間違えたのか、今の今までマコトの姪だとばかり思っていたのだ。マコトに紹介されたときに、娘の‘め’という音だけが聞こえていたのかもしれない。もはや弁解の余地はない。
「まったくこのボケ老人が!ホント、何にも変わってねえよな」
この後に及んで2度までも失礼ぶっこいてしまった。またしても平謝り。それでも彼女は笑ってくれていたのだが、果たして本当に許してもらえたのだろうか。
38年ぶりのSALLYのテレビ出演。やはり、ただでは終わらなかった。このことは、いつまでもメンバーには云われ続けることになるだろう。ようやく長い一日がようやく終わろうとしていた。
BGM fav147 途中
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